Arca | KiCk i【MUSICレビュー】

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神の領域に達しようとするのか。

それが『善』ではなくたとえ『悪』であっても、これまでの音楽家の可能性をはるかに凌駕するものであれば、その欲求には抗えないのではないでしょうか。

2012年に「Baron Libre」「Stretch1」「Stretch2」の3部作で世界に衝撃を与えたアルカ。インダストリアル、ノイズ、アンビエント…様々な混在させて研ぎ澄まされたサウンドは、ミュータントミュージックと評され、コアな音楽ファンだけにとどまらずビョークやカニエ・ウエスト、FKAツイッグスなどなど、ミュージシャンそしてアーティストの間に一気にその名が広がりました。

しかし2017年のアルバム「ARCA」ではシンセと彼(彼女?)自身がスペイン語で歌うシンプルな構成で、美しくも強くそして哀しみや苦悩を表したネオ・オペラとでもいうべき作品を輩出。前作とは大きく作風を転換し果てしない創造力を見せつけました。

そして2020年の新作では、さらに音楽の可能性、領域をいとも簡単に越え、再び華麗なる進化を遂げています。

得意とするインダストリアルやノイズがぎゅうぎゅうに詰まった攻撃的なビートと、抽象的なニュアンスを醸す美麗シンセサウンドに、エモーショナルな歌といった多数の要素が次々と出現し、これまで誰も聴いたことのない異次元のPOPミュージックが完成。

アルカ自身は『KiCk i』のテーマを「ディーヴァが流動的ジェンダーのサイバーパンク・レゲトンを未来的にアップデートしたらどういうサウンドになるか」と説明しています。アルカ自身の歌声に加え、3人のゲスト・シンガーが参加しています。

その筆頭が、ビョーク。以前からアルカと勢力的にコラボレーションを重ねてきた彼女ですが、「Afterwords」でスペイン語の圧倒的な歌声を聴かせます。歌詞はスペインの現代美術家アントニオ・マチャドの詩からインスパイアされたもので、そのメロディーはどこか不穏な響きを内包し、感傷的な風景を描き出しています。

ロンドンをベースとするプロデューサー兼シンガーのシャイガールは「Watch」でサイバーパンク的に冷ややかなスタイリッシュなトラックを。また、ネオ・フラメンコのアイコンであるロザリアは「KLK」でドミニカ語のスラングフレーズ “Que lo que “のループを曲のフックとし、実験的なトラックに仕上がっています。

*刺激の強い内容です。視聴の際にはお気をつけください。

『KiCk i』は英語とスペイン語の間を行き来することで、物事には二面性あるいは多角的な視点の必要があることを表現し、エレクトリックな破裂や痙攣といった音楽性でもって「ある単語の意味について人々が意見を異にしたときに生じる誤解が生じやすい」というメッセージを訴えています。また、アルカはインタビューで「このアルバムKiCk iは『私たちの中には宇宙人がいるという事実を認識しましょう』というメッセージしています。

ジャケットの画像は、彼(彼女?)のエイリアン(非人間)性を解放しています。ほとんど裸で、動物のような義足との凶々しい爪、不可解な装置に取り付けられています。その非人間的なヴィジュアルと異次元のサウンドで、自分自身を再発明するアルカは、常識、慣習、カテゴリー、ジェンダー、思想を超えた開放的な世界であるがゆえのスリリングを提示しています。

*刺激の強い内容です。視聴の際にはお気をつけください。

よろめき傷きながらの歩むアルカの目指す希望の地平線は、どこまで進んでも永遠にたどり着けないのかもしれない。でも、その途中で産み落とされるサウンドアートにまた僕らは酔いしれることができるでしょう。

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Arca | KiCk i

解説・歌詞対訳 / 日本独自盤面デザイン / ボーナストラック1曲収録 / 国内盤

BGM in おすすめシチュエーション

スポーツ ★
ドライブ ★★
クリエイティブ ★★★★★
ストレス発散 ★★★★★
移動中 ★★★★★
街歩き ★★★★★
旅行 ★
読書 ★
家事 ★
就寝 ★

似合う場所

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AKI yoshida
”センス”は限られた人が与えられた才能ではなく、単なるデータの集積。インプット&アウトプットの繰り返しで誰でもセンス良くなれます。キャリア20年の元セレクトショップのオーナーバイヤー。年間ダウンロード数8,000曲を超える重度のSpotify中毒者。ネコ好き。これまでケガした野良や施設から保護してきたネコは4ニャン。

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